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53. | 手土産 | |
もうすぐ中国の大親友が日本へやって来る。初来日である。日本語は話せない。ただ我々に会いに来るのだ。 ここでちょっと手土産の話。前回のメルマガで『(リーウー)』 について紹介した。プレゼントの意味でもありお土産の意味でもある。日本語でプレゼントと言うとちょっと特別な物である。 日本語が話せる中国の人だと 「(グーシァン)(故郷)に帰ったので皆さんにプレゼントを買いました」 と言ってナッツなどを配ってくれる。確かにプレゼントに違いはないが誕生日や記念日等に贈るものをプレゼントと呼び、どこかに行ったときに人にあげるために買うものをお土産と呼ぶ日本人からするとちょっと大げさに感じる。 「さっき営業で外出したので駅前で売っていた鯛焼きをあなたにプレゼントします。」 なんか違和感がある。 やっとしっくりくる言葉に出会った。今は特に若い人に使われる 『(バンショウリー)』 という言葉である。ちょっとした贈り物というか手土産的なものである。もともとは台湾から来た言葉らしいのだが、ドラマの中や若い人が使うので、今では老人でもお土産の意味だとわかる。 目上の人にはあまり使わないが、軽く「昨日富士山に行ったからお土産買ってきたよ」「日本に旅行に行くので何かお土産買ってくるね」「家に遊びに行かせてもらうから、デパ地下のケーキをお土産に持っていくね」などの時に使えるのが 『(バンショウリー)』 である。 誕生日プレゼントなどには使わない。 あなたを尊敬して贈り物をします、の意味を込めて目上の人に渡す時は、やはり 『(リーウー)』 を使おう。 中国の検索サイト「百度(BAIDU)」でその意味を検索してみた。 だいたいの意味は、 伴手礼とは外出時に友人の為に買っていくプレゼントで、一般的にはその土地の特産品や記念品等である。「伴手」とは人が持っていく手土産のことであり以前でいう「伴礼」のことである。 かつての中国社会は農業を中心とする社会であり、人情味にあふれ外出時や帰省時には相手への心遣いや礼儀の意味を込めて友人たちに手土産を持って行った。これらの手土産は値段の高い高級で有名なものではなく、人と人の感情を結びつきを表すためのもので、ささやかではあるがその気持ちを届けるための心がこもったちょっとした渡せるものだった。 ここでことわざをひとつ。 (遠い所から持参したささやかな贈り物,物はささやかだが心はこもっている。) 前半は遠いところから羽毛(はガチョウの意味)を送る、後半の は成語で、「贈り物は大した物ではないが心がこもっている」の意味。つまり、「すごく軽いものだけど心は十分にこもっています。」となる。 そうそう、来日する友人の話。 初めて会ったのは10年ほど前になる。私が中国滞在3年目頃に知り合った男の子。彼はまだ実家のある内モンゴルから北京に出てきたばかりで、1ヵ月200元(当時3千円くらい)の地下2階にある狭い部屋に住んでいた。 木が向き出しの小さいベッドが1つ置かれているだけでもう部屋がいっぱいいっぱい。畳1枚分くらいだったかと思う。(ちなみに中国語でも畳はターターミー という!) 持ち物は洗面器とコルクで封をするお湯がすぐ冷めるポット、布団、といった程度。 ハンバーガーも食べたことが無いし外国人と接したこともない。髪型も服も見るからに遠い遠い田舎から出てきたばかりといった印象の人だった。テレビも冷蔵庫も洗濯機さえ無い生活。そんな彼の家族や彼の幼馴染が、私とその日本人の友人にとてもとても良くしてくれた。病気の時はすぐ来てくれて食事を作ってくれたり微妙だけど飲み薬を買ってきてくれたり。他にも帰国するたびに送り迎え、学校の勉強もいつも見てくれたし仕事もたくさん手伝ってもらった。 猫の面倒もしょっちゅうお願いしていた。買い物にも観光地にも連れて行ってくれた。大掃除や引っ越しの手伝いもしてくれたし、面識のない友人も空港に迎えに行ってくれて宿泊先に送り届けたり、中国の食事をご馳走してくれたり、すごく良くしてくれた。外国に住むと自分では乗り越えらえない問題が発生することもあるので、彼らの存在は本当に心強い。 日本のお土産をあげても遠慮するし、レストランに連れて行こうとしても我々にお金を払わせない。いらない服を捨てようとすると田舎に持って帰って近所の人に配ったり、自分のお母さんにサイズのお直しをしてもらってリサイクルしていた。とても苦労してだんだんと一般的なレベルの生活を送れるようになったが純粋さは今も変わらない。何年もお世話になったのでお別れは寂しかったけど、何度でも中国には渡航できる。ただ彼らが日本に来れることは無いのだろうと思っていた。しかし時代は変わった。ビザも取りやすくなり航空券も手の届く金額になった。ついに日本に来る!本当に夢を見ているかのようである。 どんなに感謝しても感謝しきれないし、たくさん良くしてもらった分をどうやってもお返しできない。「もともと人には貸し借りなんてないのだから、そんなこと言わないで」と言ってくれた彼らとお別れして、はや5年。 そんな彼らも結婚してそれなりの生活を送っている。今回代表で来日する彼は子供ももうすぐ2人目が生まれる。心の底から祝福してあげたい。お父さんを早くに亡くして、お母さんと妹の心配をいつもしていた。妹が言うことを聞かないと言って泣き出したことがあった。お父さんも言うことを聞いてお酒を飲まずに食事をちゃんとしたらもっと長生きできたのに、とも言って泣いた。残された家族を守るために気を張って生きていたのだ。 日本に来たらどんな風に迎えてあげるか、お世話になった仲間で相談中。 暖かいパジャマも用意してあげたい、浅草今半ですき焼きをご馳走したい、新幹線に乗って温泉に連れていきたい、京都も福島も見せたい、ホテルビュッフェを楽しんでほしい、東京タワー&スカイツリーも見せてあげたい、高級ホテルに泊まらせてあげたい、お寿司もスイーツも食べてほしい。帰りにはお土産にデパ地下のキレイなお菓子をいっぱい持たせてあげたいし子供へのお土産も用意したい。正直者がバカを見ることも多かったと思う。正直者は報われる日が来てほしい。日本の思い出とお土産をいっぱい持って凱旋帰国してほしい。 そんな計画をいろいろ考えていたら本人からメッセージが届いた。 「キミたちにお土産を用意した。化粧品だよ。どんなものかは内緒。楽しみにしていてね。」 すごく自信があるときの言い方だ。 メイドインチャイナの化粧品…。 「あなたにお金使わせたくないのよ。そんな高いもの買って!」 「大丈夫、遠慮しないで」 いや、そうじゃなくて。 日本居住歴10数年の中国人にこの件を話したら、「何もいらないと言われてもお土産は絶対必要じゃないですか。だからいらないと伝えるよりも食べ物等の安いものをリクエストしてあげた方が親切なんですよ。」とのこと。 そして「日本に来たら普段の自分たちが食べているラーメンや回転寿司、ファミレスに連れていくと嬉しいですよ。高級な店は緊張するし静かだから中国語で話すと変な目で見られるのではないかと心配でリラックスできません。マナーもいちいち説明しなくちゃいけないので恥をかかせることになります。その友達とこれからも友人でいたかったら高級なお店は絶対行ったらダメです。今度自分があなた達を接待するときに同じレベルにしないと、と思っても実際できないじゃないですか。」と。 確かにそうだ。 私がしようとしていた恩返しは逆に迷惑になりかねないのだ。 次回は家族を連れて来日したいと言っている。 ありがた迷惑なサプライズを準備するよりメッセージで確認することにした。 「日本に来たら行きたい所とか食べたいものある?銀座とかジブリの、お台場、浅草なんかが中国人観光客に人気らしいよ。」 その答えは、 「君たちが生まれ育った街を見てみたい。あと自転車に乗ってみたいな。」 相変わらずの純粋さにこちらが申し訳ない気持ちになった。 |
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今回は、ここで終わりにします。 (2017年12月31日) |
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